猫の全顎抜歯(歯周病、歯肉口内炎、吸収病巣)

お口が臭う、歯茎が赤いということでご来院の10歳の猫ちゃん。歯肉全体が赤く、本人も口を引っ掻く仕草をしたりと辛そうなので、全身麻酔下でしっかり検査、その後歯科処置を行いました。

赤くなった歯肉や歯石がついた歯

赤くなった歯肉や歯石がついた歯

プローブという器具で歯肉のポケットの深さを測ったり、歯科用レントゲンにて全ての歯を撮影しました。

歯石に覆われた歯

歯石に覆われた歯

すでに歯の本数が少なくなっている

すでに歯の本数が少なくなっている

これは右上顎の臼歯ですが、すでに何本か歯がないことがわかります。かつ、よく見ると根っこの部分がうっすら確認できます。正常な右上顎の臼歯のレントゲンは下のようになります。

下顎の臼歯も、一部はなくなり、残っている歯も歯肉との境目が黒くなっています。これらは、歯の根本が吸収し溶けてしまう「吸収病巣」という状態です。

歯周病による歯槽骨の吸収と、歯の根本の吸収病巣

歯周病による歯槽骨の吸収と、歯の根本の吸収病巣

正常な歯との比較

正常な歯との比較

吸収病巣とは、3歳を超えるとすでに50%の猫ちゃんが罹患していると言われる疾患です。原因ははっきりしていませんが、破歯細胞によって歯の付け根から歯が吸収され、骨に置き換わっていきます。付け根から吸収されるため、進行すると歯冠(歯の歯茎から見えているところ)部分が取れ、一見抜け落ちたかのように見えますが、歯根部分は残ります。これらは骨に置換されないタイプ1と、置換されるタイプ2がありあます。タイプ1では抜歯、タイプ2では歯冠が残っている場合は歯冠切除が必要です。

歯石を除去したあと

歯石を除去したあと

この症例の子は歯石除去を行うと、上顎の臼歯などはかなり吸収がすすんでいること、他の歯も歯周病で歯根分岐部も露出していたことから、抜歯を行いました。

抜歯、縫合

抜歯、縫合

左側の所見

左側の所見

左の歯も同様に、歯科レントゲンなどを用いて評価しました。

歯根が残った状態

歯根が残った状態

正常との比較

正常との比較

左も吸収病巣が進行している

左も吸収病巣が進行している

正常な歯と比較

正常な歯と比較

左も同様に抜歯対象となる状態だったため、抜歯をしました。

全顎抜歯、縫合

全顎抜歯、縫合

10日後の再診時には、赤みや口臭はなく、食欲も旺盛ということでした。縫合した糸は、一ヶ月ほどで吸収されてなくなります。歯がない状態でも、食事は問題なく取れますが、早期から歯石除去、部分抜歯などでケアして、なるべく一度に沢山の抜歯をしないで負担を減らす事が大切です。また、この病態は肉眼ではわかりにくいため、全身麻酔下にて歯科用レントゲン撮影で判断します。猫ちゃんの50%が罹患するという病気ですから、猫ちゃんの歯科には、歯科用レントゲン設備のある動物病院での処置をお勧めいたします。

術後の経過

術後の経過

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