急に足をつかなくなった、小型犬の股関節脱臼

高いところから飛び降り、キャンと鳴いたあと急に後ろ足をつかなくなったという小型犬のわんちゃん。診察すると、確かに後ろ足を床につきません。

黄色矢印部が左股関節脱臼

拡大図

レントゲンを撮ると股関節が脱臼していることがわかりました。

正常な右側の股関節を横から撮影したところ

同様に左側を横から撮影。股関節の関節から大腿骨頭が外れている。

股関節脱臼は股関節形成不全などの股関節疾患が原因で脱臼する場合と、正常な股関節が外からの強い力が加わり脱臼する場合に大別されます。脱臼自体は背側方向脱臼腹側方向脱臼の2つのタイプがあり、それにより治療方法が変わってきます。一般的にわんちゃんは頭背側方向の脱臼が78%という報告があります。

今回はレントゲン写真から腹側方向への脱臼とわかりました。比較的珍しいと言えるでしょう。

脱臼とは関節を形成している骨が離れてしまうことです。症状としては痛みでその場所を使わなくなる、関節の腫れ、痛み、内出血などです。放置して自然にハマることもまれにありますが、基本的には関節にまた戻す「整復」という治療を行います。整復直後は再脱臼しやすいため、しばらく動かさないように固定します。これらの治療は非常に痛みを伴いますので、鎮静あるいは全身麻酔下で行います。

今回は鎮静をかけたうえで、幸いなことにすぐ整復することができました。

鎮静下で元に戻した左股関節

横から撮影。きちんと整復されている

腹側方向への脱臼の場合は、写真のように足の幅を短くする「足かせ」を作り、しばらくそのまま生活してもらいます。

足かせをかじったりしないようにエリザベスカラーなどを使ってもらいます。程度によりますが2週間は足かせを装着してもらい、外した後の再脱臼をしないか観察します。

この子はその後再脱臼はせず、良好にすごしているようです。再脱臼を繰り返す場合は関節を固定する手術や、大腿骨の骨頭を切除する手術などを選択します。いずれにせよわんちゃんが足をあげて痛がっていたら早めに受診してあげることが必要です。下の写真は、別の子ですが、違う病気で来院されレントゲン撮影をしたときに、偶然発見された両側股関節脱臼のトイプードルちゃんです。

左右とも股関節のくぼみから大腿骨がはみ出て見える

横から見たところ。股関節から黄色矢印の部分に大腿骨がずれて確認される。

最初の子と違い、背側方向へ左右とも脱臼しています。飼い主さんは脱臼していることに気づいていませんでした。わんちゃんはこのように脱臼していても筋肉などでカバーして歩くことがあります。しかし関節がゴリゴリ当たって痛いとか、なんらかの障害もある可能性があります。痛みなどの症状があった場合は様子を見ずに、一度レントゲンでの評価は必要と考えられます。このトイプードルちゃんは左右とも脱臼のためおそらく先天的な問題があったと考えられ、高齢でもありそのまま経過観察となっています。

TOP