重度の玉ねぎ中毒の犬
犬猫が食べると危険な食べ物の代表格に玉ねぎ、チョコレート、ぶどうなどがあげられます。今回重症化した玉ねぎ中毒のわんちゃんがおりましたのでご紹介いたします。
5日前くらいから元気がなく、散歩に行きたがらない。食欲も落ちているというわんちゃん。飼い主さんに聞いても、きっかけはわからないとのこと。少し軟便だったということでしたが、身体検査でくちびるをめくると、歯茎が真っ白で貧血を起こしていました。血液検査をすると、ヘマトクリット17.3%(基準値37-55%)と、輸血を検討するレベルの重度の貧血を起こしていました。
ここまで重度の貧血ですと、お腹の中での大量出血、腫瘍、免疫介在性疾患など命に関わる病気の可能性があるため、超音波エコー検査、レントゲン、尿検査などを実施しました。血液を顕微鏡で検査すると、血液の成分の赤血球に異常が認められ、ハインツ小体の出現、ヘルメット細胞、偏心赤血球などの特徴的な所見が認められました。
また尿検査ではビリルビンが検出されました。レントゲンや超音波エコー検査では明らかな異常は認められず、赤血球の所見から玉ねぎ中毒などの中毒を疑いました。もう一度飼い主さんに確認すると、「1週間前にフライパンのハヤシライスの具を盗み食いした」とのことでした。
玉ねぎ中毒は、玉ねぎ、ねぎ、ニンニクなどのネギ属に含まれるアリルプロピルジスルフィドが原因です。この物質はヘモグロビンと赤血球の膜に障害を与え、赤血球を壊します(溶血)。犬の体重1kgあたり15-30gの摂取で赤血球が壊れると言われていますが、犬種によって差があり、柴や秋田犬は注意が必要です。
初期は嘔吐下痢などが認められ、その後溶血による粘膜蒼白、頻脈、ヘモグロビン尿(赤〜茶色の尿)などが認められ、重度の貧血の際は輸血が必要であったり最悪死にいたります。
今回のわんちゃんは血圧も下がっており緊急と考えられ、すぐに入院しました。玉ねぎ中毒には特別な解毒剤はありません。摂取直後は吐かせることもありますが、今回のようなケースは静脈点滴での循環確保、抗酸化作用のあるビタミンや肝臓保護剤などを用います。
幸い、三日の入院治療でわんちゃんはどんどん元気になり、貧血も回復して(ヘマトクリット17.3%→25.4%)退院しました。退院後も抗酸化剤と鉄剤を併用してもらい、貧血が改善し治療終了としました。
玉ねぎ中毒は基本的に誤食が原因ですので、すぐに吐かせる(注意:病院で必ず行う処置)など対処すれば、大ごとにならないことがほとんどです。今回は残念ながらハヤシライスを食べたけど、その後平気そうだった、いつも盗み食いをする、と様子を見たために命に関わる状態となりました。人間の食べものを食べた際は中毒の他にも急性膵炎など危険な病気を起こすことがあります。様子を見ずにすぐ病院を受診する、その後も経過をよく観察する、そして何より誤食しないように対策をする必要があります。
台所で生ゴミを漁る、フライパンを舐めるなどはよくある事故です。入り口にゲートを設置する、ゴミ箱は蓋付きにするなどできることは早めに対策しましょう!