猫の去勢手術・早期不妊について

お問い合わせの多い、猫の去勢手術について2023年現在の当院の方針、流れについてまとめておきたいと思います。手術などショッキングな写真が多いのでお気をつけください。

 

猫の去勢手術の目的

主に2つあります。

1.望まない繁殖を防ぐ

2.マーキングなどによる不適切な排尿の防止、テリトリー争いによる喧嘩、感染症の蔓延の防止

 

1.望まない繁殖を防ぐ

猫の繁殖能力は高く、メスは早いと生後4ヶ月で発情を迎えます。妊娠期間はたったの2ヶ月です。オスとメスの兄弟で飼い始め、気づいたら出産ということもあります。出産するメスと違い、オス自身は出産しないから手術は必要ないのでは?という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、万が一外に出てしまったら、メスを求めて帰ってこなくなるかもしれません。さらに、オスでも去勢手術が必要な理由は下記に示すものが大きな理由です。

2.スプレー・マーキングなどによる不適切な排尿の防止、テリトリー争いによる喧嘩、感染症の蔓延の防止

皆さんもスプレー、マーキングという言葉を、少しは耳に挟んだこともあるかもしれません。オス猫が尻尾をあげ、腰を高くして勢いよく少量の尿を壁、柱などに吹き付ける行為です。

去勢をしていないオスは自分のなわばりを主張するために、壁や家具にスプレーすることがあります。未去勢のオスの尿は強烈な匂いですので、これでお困りの方もしばしばいらっしゃいます。なかにはこのスプレーが嫌だということで猫を外に出してしまう方もいらっしゃいます。しかし大抵の子は去勢手術を子猫のうちにしておけばその行為をしません。そして、尿の匂いも軽減します。なかには去勢してもスプレー行為が治らない場合がありますが、原因としては保護猫などで成猫で去勢した、多頭飼育、外猫がうろついているのが窓から見えるなどです。そういった場合はフェロモン剤やサプリメント、お薬、環境、接し方の改善などが必要となりますが、レアなケースです。いずれにしろまず第一に去勢を提案することに変わりはありません。また去勢をしていないオス猫は、外に出るとリトリー争いで喧嘩をすることもあります。実はこれはとても恐ろしいことなのです。

喧嘩傷から膿が出ている

毛を刈って消毒したところ

過去には猫も屋内外を自由に飼育してる家庭も多く、怪我をする猫ちゃんの治療も非常に多かったです。猫のキバや爪にはバイ菌が多く、小さな傷でもあとから大きく腫れて膿が出ることも多いです。

ほっぺたから膿

おしりから膿

未去勢猫の外傷

未去勢猫の外傷。外で生活し去勢をしていない限り一生続く。

飼い猫が外に出て怪我

胴体に穴が空いている

そして、血液を介したウイルスの病気もあり、喧嘩をするとエイズや白血病ウイルスなどに感染します。実際、エイズウイルスはメスよりオスで陽性率が高いです。テリトリー意識のある未去勢猫は屋外への脱走も多いため、屋外でのトラブル(喧嘩、交通事故、虐待、寄生虫感染)が増えます。去勢をすることによりテリトリー意識などのストレスから解放されるばかりか、喧嘩、交通事故など様々なリスクから回避することができるのです。これはオス猫の命を守ることになるのです。

去勢手術のデメリット

去勢手術のデメリットは、全身麻酔をかける負担、それからやはり肥満だと思います。当院ですと去勢手術は15分もあれば終わりますから、麻酔の負担は少ないと言えます。しかし、去勢後の肥満に関してはオスに関しては特に気を付けるべきです。男性ホルモンの影響を受けなくなりますから、子猫用フードや成猫用を同じように与えていると太ってしまう可能性があります。去勢オスの肥満は泌尿器疾患にもなりやすくなり、体重が増えることで関節へ負担もかかります。食餌の量を減らすとかえってストレスになりますから、カロリーの低い去勢後用のフードに変えるなど工夫しましょう。

手術の時期について

メス猫は早めな避妊手術で乳腺腫瘍の発生を防ぐことが有名ですが、オス猫には特にいつまでという時期はありません。しかし生後半年くらいまでには去勢しておくほうが、スプレーなどを経験せずに済み良いでしょう。アメリカンショートヘア、マンチカン、ペルシャ、エキゾチック、ブリティッシュショートヘアなどの鼻の短いいわゆる短頭種の猫種では、歯並びの異常(不正咬合)が認められることもあり、生後半年ごろ、乳歯が永久歯に変わるのを確認してから去勢手術を行う方が良いかもしれません。なぜなら歯の異常があった場合は通常全身麻酔をかけて処置をします。生後半年ごろであれば一度の全身麻酔で去勢手術と同時に歯の処置ができるからです。猫の不正咬合についてはこちらのページをご覧ください。

早期不妊とは?

このくらいで手術可能です。

耳慣れない単語かもしれませんが、もしかしたら飼われている猫ちゃんが元保護猫の場合、早期不妊されているかもしれませんね。早期不妊とは一般的に生後2ヶ月前後から避妊去勢手術を行うことです。

通常の手術よりだいぶ早い時期になりますが、目的はズバリ「繁殖制限」です。当院では保護主さんや愛護団体さんが保護猫を里親さんに譲渡する前に避妊手術を推奨しています。これを「譲渡前不妊手術」と呼んだりしますが、例えば外や屋内で過剰に増えた子猫が保護されたとして、その子達を里親に出した時、避妊手術がされなかったり、外に出てしまうとまた繁殖してしまうわけです。これらを未然に防ぐために20年前くらいからアメリカのシェルターから始まり、譲渡前不妊手術が普及してきました。早期不妊は、過去に「オスの尿道の成長に影響し泌尿器疾患になりやすい」などと言われた時期もありましたが、これらはその後の研究により早期不妊とそうでない去勢オスで発症に大きく差はないと言われております。当院では大体体重1kgくらいから実施しております。気をつけるのは低体温と低血糖ですが、こちらは手術前にしっかりご説明させていただいて予防できることです。正直に申し上げますと、早期不妊手術は猫も可愛いし、腹腔内脂肪も少なく手術しやすく出血も少なく、短い時間で済むのでとても楽です。保護した猫の譲渡をお考えの際はぜひご検討くださいね。

実際の手術は?

猫の去勢手術は、全身麻酔をかけて精巣を摘出します。細かい手技は病院によって異なりますが、睾丸に一箇所ないし二箇所切開し精巣を摘出。切開した術部は自然とくっついてしまうので縫合しないことがほとんどです。なかには1糸か2糸縫合する場合もあるようですが、その場合は抜糸がのちほど必要になります。当院での実際の手技を下に記します。

1.全身麻酔をかけ、陰嚢の毛をかり、消毒する。

2.陰嚢の真ん中(正中)で一箇所切開する。

3.精巣を取り出す。

4.鉗子を用いて精管と血管を縛る。

5.縛ったあと、精巣を摘出する。もうひとつの精巣も同様に摘出する。

6.出血がないか確認して終了。縫合はしない。

摘出した精巣

停留精巣(潜在精巣、陰睾)とは?

犬や猫の去勢手術において気を付けるべき点は、まず陰嚢に「精巣が二つ存在するか」ということです。精巣自体が先天的に欠損している精巣の低形成のほかに、停留精巣(または潜在精巣、陰睾)という状態があります。胎児のときに精巣はお腹の中にありますが、出産し成長とともに鼠径から皮下、陰嚢内に移動します。正常に陰嚢内に降りてこない場合、お腹のなかですと「腹腔内陰睾」、鼠径から皮下ですと「皮下陰睾」と呼びます。陰嚢に降りていない精巣は正常な成長ができなかったり腫瘍化するとされており、また遺伝もすることから基本的に摘出する去勢手術が一般的な治療です。犬に比べ猫では少ないですが、精巣の確認を怠っていざ去勢手術をしようとしたら片方がなくて慌てる、なんていう事故もありますので、この状態がないかどうか確認することは非常に大切なプロセスです。片方ない場合はほとんどが皮下にあることが多いので、下に皮下陰睾の手術をご紹介します。

右の精巣が皮下にある状態

毛をかって消毒したところ

鼠蹊部皮下の精巣を摘出

陰嚢の精巣は定法によって摘出

左の精巣が皮下にある状態

精巣の真上の皮膚を切開して摘出

さて、猫の去勢手術について流れをお話ししました。停留精巣の可能性なども含め、当院ではまず一度診察に来ていただき、身体検査および術前の血液検査などを行います。また子猫においてはワクチンスケジュール、ウイルス検査の有無なども確認させていただき、必要なものがあれば追加させていただきます。手術の日は朝ごはんを抜いて午前中に来院。お昼に手術をして、18時くらいにお迎えです。通常は日帰り、カラー、飲み薬などありません。当院の去勢手術についてご相談があればお電話などでご相談ください。なお最低限のご費用は以下になります。

初日:初診料1760円、術前血液検査6600円

当日:再診料880円、去勢手術16500円

基本的に抜糸、再診、内服などなし

練馬区にお住まいの方は飼い猫の助成金 雌猫3000円 雄猫1500円などご利用できます。

 

 

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