子猫の歯が欠けた(破折)・根未完成歯の露髄

歯が欠けたり折れてしまうことを破折(はせつ)と言います。表面のエナメル質、象牙質までの破折を単純性歯冠破折、神経が出てしまう(露髄ろずい)までに歯折が及ぶことを複雑性歯冠破折と呼びます。

露髄してしまうと痛みを伴い、神経が感染を起こして歯を失う原因となります。そのため放置はせず、一般的には①抜歯か②神経を抜く抜髄根管治療*を行います。ただし、若い犬や猫だと治療法が変わってきます。

*①の抜歯に関しての症例はこちら

 ②の抜髄根管治療に関しての症例はこちら

永久歯に生え変わる前の乳歯が折れてしまった場合は、そのままだと永久歯の生え方に影響を与える可能性があります。その場合は、折れた乳歯を抜歯します。また永久歯であっても、生後6ヶ月から10ヶ月くらいですと歯の神経の通る根管の先端が閉鎖されておらず(根未完成歯こんみかんせいし)、神経を抜く治療をいきなりすることはできません。この場合、露髄直後の場合と経過が開いてしまった場合で治療法が変わります。

参考:2歳の猫。黒い細いスジが神経

参考:生後6ヶ月の猫。黒い神経部分が広く、根元が閉じていない。

根未完成歯(大体生後10ヶ月までの歯)の露髄を伴う破折

露髄直後生活歯髄切断法

歯を折ってから1,2日くらいですと感染した歯髄を除去し、水酸化カルシウムやMTAセメントなどのお薬で覆う生活歯髄切断法を取ります。正常に歯が成長すると歯根が閉鎖し治癒します。この処置をアペキソゲネーシスと言います。

露髄から時間が経った場合:

いつ歯を折ったかわからない場合や、3日以上経ってしまっている場合は神経は感染を起こしている可能性がありいったん歯髄を除去し、根管を清掃後、水酸化カルシウムやMTAセメントを充填します。根尖が硬化したのち、通常の根管充填を行います。この根尖を硬化させる処置をアペキシフィケーションと呼びます。この処置で残した歯は正常な成長とは異なるため、象牙質が薄く折れやすいため注意が必要です。

というわけで、前置きが長くなりましたが若い犬や猫の歯が折れると、非常にやっかいです。今回生後6ヶ月の猫ちゃんで上顎犬歯歯折し生活歯髄切断を行った子がおりますのでご紹介します。

生後6ヶ月マンチカンの女の子。昨日左側の犬歯を遊んでいて椅子にぶつかり折ってしまったとのこと。

左上の犬歯が折れ、断面中央に赤く見えるのが神経。

折れた場所に赤い点のようなものがあり、神経が出てしまっていることがわかりました。

歯を残したいという飼い主さんの希望で、かつ折った直後であったため、生活歯髄切断法を提案しました。

左上顎犬歯。歯の黒い空間が神経の部分。

正常な右犬歯

全身麻酔をかけ、歯科レントゲンを撮影するとやはり歯の根元が広がっており根未完成歯でした。破折部位を金属のバーなどで整え、窩洞形成、断髄、止血します。その後水酸化カルシウムをのせ、グラスアイオノマーセメントで裏層、コンポジットレジンを充填し終了です。

処置後

3ヶ月後に鎮静下での歯科レントゲン撮影をしました。前回に比べ、無事に左右差なく歯髄が狭くなり、根尖が閉鎖しつつあることがわかりました。治療がうまくいかない場合、歯の神経は死んでしまい黒い神経の部分が広いままになります。

正常な右犬歯

治療した左犬歯も無事に成長している

処置直後

処置3ヶ月後

1年ごと2年後にも定期的にチェックしていきます。この症例は破折直後に来院されたため、このような処置が可能でした。経過が長い場合は、異なる方法をご提案します。

※一般的な抜髄治療もそうですが、破折の治療は抜歯以外では複数回の鎮静ないし全身麻酔下での定期検査が必要です。なぜなら歯の中の状態は見た目ではわかりにくいからです。調子が良さそうでも必ず処置後の定期検診を受診ください。そのような術後の定期検診が難しそうな場合は、抜歯を推奨いたします。

 

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