19歳、高齢猫の断脚、扁平上皮癌

室内外を自由に行き来するという19歳の高齢猫ちゃん。爪を怪我しているとご来院。外に出てしまうとそれだけで事故や喧嘩、外傷などが多くなります。見ると左前足の親指付け根部分が化膿していたので、抗生剤を処方しました。

左前足の親指部分が赤く腫れている

一時的に良くなったものの、舐めるせいかなかなか治らないと、1ヶ月後に来院。足先は腫れ、体重が減少しており、食欲もないとのことでした。レントゲンを撮ると、右前足の指の部分が根元から溶けているようでした。

左前足親指部分は白く骨が露出

左側が右前足(正常)、右側が左前足で指の付け根の骨がとけている

 一部骨の辺縁が盛り上がったり、溶けたりという所見から悪性の腫瘍が疑われました。鎮静下で組織検査をし診断、そののちに大学病院などの二次診療施設のご紹介という流れを提案しましたが、高齢で移動が困難なことと、状態が良くないこと、またご費用の点から飼い主さんは希望されませんでした。そこでリスクを承知の上で、当院で肩から断脚することとしました。悪性腫瘍の大半は転移や播種が起きていて、足先だけ腫瘍を摘出しても再発してしまいます。そのため脚全体、肘から下、などで大きく摘出する必要があります。リンパ節の細胞診やレントゲンなどから胸部などの転移はなさそうでしたので、全身麻酔下で断脚を行いました。

肩甲骨から左前足を全て摘出した直後。バンテージで圧迫している。栄養状態が悪かったため術後流動食を与えるカテーテルが鼻に留置されている

手術当日までには痛みのために大好きだったお刺身も食べなくなったとのことでしたが、手術を終えた後は、翌日にはなんとドライフードを食べるほどまでになりました。

 

三日後退院時。顔つきもかなりよくなった

断脚し病理検査に出した結果は「扁平上皮癌」でした。扁平上皮癌は猫ですと口腔内扁平上皮癌が多いですが、他に足先に発生するものもあり、悪性です。さきのレントゲン写真の通り骨をとかしたり局所浸潤もありながら遠隔転移もあります。また、局所の痛みがかなり強くなります。がんの治療での断脚は、がんの根治のためのほかに「痛みを取り除く」という目的があります。現に、足がなくなっても食欲は旺盛となりました。この猫ちゃんは20歳で残念ながら腎臓病で亡くなりましたが、それまで転移などなく生活できることができました。

手術から半年後の定期検診時。かわいい手作りの洋服を着せてもらっている

高齢であっても、慎重な術前検査の結果のもとで全身麻酔下で手術を行うこともあります。メリットデメリットを獣医師と相談の上、苦痛をどうやったら軽減できるかしっかり相談しましょう。また扁平上皮癌のように一見ただの怪我のように見える悪性腫瘍もあります。早めの受診を心がけましょう。

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