トイプードルの頬が腫れた、根尖性歯周炎

わんちゃんのほっぺたが腫れた場合、考えられる原因は複数あります。左右対称か、腫れた場所に穴が開いてないか、毛が抜けてないか、皮膚の色が変わってないか、触ると痛がるか、硬いか柔らかいか、急にできたか、ずっと前からあるか・・・。それらも考慮しながら大体三つくらいに原因を鑑別します。

腫瘍 いわゆるがんなど、皮膚や皮下軟部組織の腫瘍。
感染症 細菌、真菌(カビ)、ウイルスなどによる感染と炎症。歯の根元が腫れる根尖病巣などもこれに含まれます。
炎症 免疫の問題やアレルギー、異物などで炎症が起きて腫れること。感染症と複合することも多いです。

 

右頬が左に比べ腫れている

今回ご紹介するのはトイプードル11歳のわんちゃん。
右ほっぺたが腫れ、かかりつけで抗生剤を処方してもらったら小さくなったが、また再発したそうです。抗生剤は細菌に対するお薬ですので、腫れた原因は細菌感染の可能性が高いです。顔の様子を確認しても、特に怪我した様子などはなさそうでした。次に、おくちのなかを確認しました。

右側

左側

歯肉の赤みや腫れなどはありませんでした。歯石に覆われ歯周病があることは明らかでした。また上顎第四前臼歯(上の一番大きい歯)の形が左右で若干違う印象を受けました。次に、単純レントゲン検査で頭部を撮影しました。そうすると、ちょうど右第四前臼歯の歯根部分の周囲が黒くなっていることがわりました。これは歯の根元の骨が吸収されている可能性があります。

黄色で囲んだ部分が骨の吸収部分

以上から、歯にまつわる病変から頬が腫れた可能性を考え、全身麻酔下で歯科レントゲン、歯科治療などを行うこととしました。もし歯が原因ではないと考えられた場合は、その腫れた部位の組織を切り取って病理検査に提出し、原因をつきとめます。

そして当日です。全身麻酔をかけて、たくさんついていた歯石ととると・・・

かたちがおかしいと感じた右上顎第四前臼歯は、歯がかけて神経が出ている状態でした。

反対側、左上顎第四前臼歯は歯石をとるとこのような状態です。

左上顎第四前臼歯。

歯科レントゲンではこのような状態でした。

右上顎。黄色の部分が歯の根元が黒くなっている部分。

同様に左上顎

全身麻酔下での検査で、

1.右上顎第四前臼歯の露髄(歯の神経が出ていること)を伴う破折(歯がかけている)およびレントゲンで歯の根元が黒い。

2.右第一第二後臼歯の歯の根元が黒い。

3.左第一後臼歯の歯の根元が黒い。

が認められました。また歯周ポケットの深さを測るプロービング検査も実施しましたが、上顎の第一、二後臼歯は左右とも4mm以上のポケットでかつ動揺が認められました。

内側から検査しているところ。ぐらつきがある。

さて、今回はほっぺたの腫れた部分の原因を知ることが目的です。肉眼的所見より右第四前臼歯が破折して露髄していることがわかりましたが、歯科レントゲン検査ではその後ろの第一、二後臼歯の歯の根元(根尖)も黒くなっていました。歯の根元がレントゲンで黒く映る原因は

  • 1,根尖性歯周炎(歯髄の感染)
  • 2,辺縁性歯周炎が歯根まで進行したとき
  • 3,歯内歯周病変(上行性歯髄炎)
  • 4,歯根嚢胞

    などがあげられます。おおまかに表現すると下のような図になります。

    結局のところ、歯の根元に感染が及ぶことが原因となります。歯がかけて、神経が出てしまいそこから神経が感染を起こし歯の根元まで影響があるか、歯周病が進行し歯の根元まで感染を起こすか、という感じです。

    今回は右第四前臼歯は破折していること、第一第二後臼歯はぐらつき歯周ポケットも深いことから、破折、歯髄感染からの根尖性歯周炎と歯周病原発の辺縁性歯周炎が同時に起きていると考えられました。第四前臼歯は破折が原因の場合は、治療としては

    • 1,抜歯
    • 2,抜髄根管治療(歯の神経を抜いて詰め物をする)

      があげられます。今回はわんちゃんが11歳で初期の心臓病もあることから、治療として一度で済む抜歯を行うこととしました。また後臼歯も歯周病のステージも重度であり抜歯しました。

      歯を分割して抜歯する

      抜歯後はレントゲンを再度撮影し、残根がないか確認する

      抜歯、歯肉の縫合

      抜歯後の第四前臼歯の遠心根(歯の根っこ)

      第四前臼歯の抜歯した歯根を確認すると、3本の歯根のうち遠心根(後ろ側)の根尖が黒く壊死し、肉芽のようなものが付着していました。ここがおそらく頬の腫れの原因だったのでしょう。

      黒丸が肉芽が付着し歯髄が壊死していた歯根。

      よく言われるほっぺたが腫れて膿が出るという症状は、歯根膿瘍とか根尖膿瘍とか言われますが、これらの腫れた部分の膿が、皮膚に穴を開けて出てくることです。その場合は穴から細い探針となるようなものを挿入し、レントゲンを撮って原因部位を探ることができます。今回のような膿が外に出ていない場合は、原因となる歯がどこか分かりにくく注意が必要です。少なくともレントゲン撮影は必須と考えます。

      同様に歯根の透過性が亢進していた左上顎第一後臼歯も抜歯し、歯石除去、研磨などを終え治療は終了しました。術後1週間後、1ヶ月ごと来院していただきましたが、再発もなく良好です。

      当院では「歯が欠けているのを放置しないように」とよくお伝えしています。今回のように飼い主さんも気づかずいつの間にか歯がかけていて、神経が出ていても急に症状は現れないこともあります。そして歯石が重度に付着し、いよいよ感染が悪化してから症状が現れます。シニアになってからの全身麻酔は、若い子よりも負担もかかりやすくなります。異変に気づいたら放置せず、早めに病院を受診しましょう。定期的な歯のクリーニングは、口腔内の異変に早期に気づくことができますから、おすすめです。

       

       

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