アメリカンピットブルの皮下陰睾(潜在精巣、停留精巣)

アメリカンピットブル

犬や猫の精巣は、おまたの睾丸のなかに二つあるのが正常です。胎児のときにはお腹の中にあり、出生、成長とともに後ろ足の付け根の鼠径部から降りてきて、睾丸に収まります。なかにはその精巣が正常に睾丸に降りず、お腹の中に留まったり(腹腔内陰睾)、鼠径部や皮下組織に留まる事(皮下陰睾)があります。正常に睾丸に降りなかった精巣は、正常より腫瘍になる確率が上がったり、萎縮する事があります。また大事な事ですが、この陰睾は遺伝するとされており、繁殖のために交配すべきではありません。よって、陰睾と診断された場合は去勢手術を行い、繁殖の抑制、そして腫瘍化を未然に防ぐことが推奨されます。

今回、アメリカンピットブルの男の子で、非常に見つけにくい皮下陰睾の子がおりましたので紹介いたします。アメリカンピットブル、8歳の男の子。小さな頃から片側が陰睾であることがかかりつけで指摘されていたが、そのままにされていたそうです。腫瘍化のリスクなどをお伝えし、去勢手術をすることになりました。片側の精巣がお腹の中にあるか、皮下なのかは、触診でわかることもありますが、非常にわかりづらいケースもあります。今回は大型犬であったこともあり触診やレントゲン検査、超音波エコー検査では精巣が確認ができませんでした。よって、その旨を飼い主さんにお伝えし、手術で全身麻酔をかけた後に再度探査し、執刀することとしました。

 全身麻酔をかけた後に触診ともう一度エコー検査を行いましたが、精巣が萎縮しているのか確認できず、正常な精巣を睾丸から摘出しつつ、試験開腹となりました。

術前の様子

正常な精巣の摘出

精巣にはかならず精管がつながっており、その管は前立腺という膀胱の付け根にある腺に続いています。そのためお腹を開けて、前立腺から精管をたどり、精巣を探索しました。すると、外からの触診でわからないほど小さくなった精巣が、鼠径部の皮下で見つかりました。

精管と、皮下の精巣を確認

皮下の精巣

慎重に小さな精巣を摘出し、皮膚と、お腹を縫って手術は終了しました。

左右の精巣

摘出した精巣はもう片方の精巣の三分の一ほどの大きさでした。二つの精巣を、病理検査に提出しました。病理検査の結果は、「右精巣:特に著変認めず 左精巣:精巣低形成」というものでした。皮下に停留していた事により、小さな精巣は正常な構造は保っておりませんでした。停留精巣は精巣原発腫瘍の好発因子の一つですので、今回の切除により腫瘍発生を防ぐ事ができたと思われます。

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